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アートの街・金沢の新プロジェクト「ヒラメキ アブクニアソブ」で、 街も自分も好きになるアート体験を。

金沢21世紀美術館や鈴木大拙館など、魅力的なアートやカルチャーに触れられるスポットが集まる金沢。カメラを片手に、作品を見るため観光へ訪れる人も多いのではないでしょうか。
そんな金沢の中心地であり、アート&クラフトを楽しめる街・金沢竪町商店街で、初めてとなるアートプロジェクト「ヒラメキ アブクニアソブ」がスタート!


今回のプロジェクトのアートディレクション及びコンセプトメイクを行ったアーティスト・石塚まこさんとは、どんなひとなのか。アートライターが、まこさんのアーティストスタンスや、プロジェクトについて取材しました。


↓プロジェクトについての概要・詳細についてはこちらの広報物をご覧ください↓


↓データはこちらから↓
https://www.tatemachi.com/pickup/abukuniasobu.pdf

「アートの魅力」を体現するアーティストと作品

今回のプロジェクトでは、商店街のさまざまな場所にマンガの吹き出しのような、また雲のような形のバルーン型オブジェが設置されています。商店街へ訪れた時に、吹き出しに合わせて写真を撮って遊ぶなど、見る人がそれぞれの発想で楽しむことができます。


アート作品を観るとき、写真を撮ることが好きな人、また自分でなにかを創り出すインスピレーションを得る人など、楽しみ方はさまざまありますが、そもそもなぜ人は「アート」に惹きつけられるのでしょうか?アート&クラフトを楽しめる街を知る一歩として、アートの魅力とはなんだろう?と考えながら、まこさんと話しているとヒントがありました。


「わたしの思考はね、直線的じゃない。だからいろんなところに話が跳んでいってしまうの。」遠慮がちに、まこさんはそう言いましたが、そのジャンプこそがアーティストのクリエイティビティであり、アートの魅力なのではないか?と思いました。


今回、バルーン型のオブジェと共に「直線的ではない」と言ったまこさんの思考を表している展示もあります。商店街の一角にプロジェクトコンセプトが書かれたテキストがあり、その隣にある「思考の地図」は、まこさんの考えや経験が言葉の図解として表現され、ジャンプをしながら豊かに広がっていく思考の様子に触れることができます。

 

アートに触れることは、毎日続く日常という直線から、少しだけ飛んで行ける。遊び場のような、あるいは避難所のような場所で、私たちは時に窮屈で変わらない直線から少しだけ解放される自由を求めて、アートを見ているのかもしれません。 

外国人という立場で得た「跳躍する自由」


まこさんの自由に飛んでいける力はどこから生まれているのでしょうか。今、欧州を拠点としてアーティスト活動をしている彼女は、

自分が「外国人」また「よそ者」となる環境で得られた自由について話してくれました。


「ヨーロッパで外国人として生活していると、もちろん差別されることもある。でもね、自分たちとは『ちがう人』と思われることで特別に得られるものもある。法律や規則を破るわけではないけど、その場所での標準や、こうあるべきだと考えられている姿に合わせなくても、周りのひとは案外受け入れてくれること。外国人という立場になって、さまざまな文脈はこうやって跳躍できるんだ!と経験できました。」

国籍も、年代も関係なくあらゆる人とコミュニケーションをしているまこさんには、不思議なほどに「壁」がない。

それでも時に、うまくいかないこともあると言う。


「国やコミュニティなど、いろんな枠の中と枠の外の間には境界線があって。さまざまな人と対話しているなかで抵抗を感じると、『あ、ここに境界線がある!』と気付くことがあります。でもその境界線を感じたときに、その線を無理矢理なくそうとしたり、また心のシャッターを閉めて遠ざけたりせず、どんな球を投げれば、境界線を超えて相手に届くかな?って考える。いろんな変化球を投げてみることが楽しいんです」

「そうやって距離感のあるキャッチボールを楽しんでいると、対立する意見を持っている人にも、『どうしてそう考えたの?』と聞いてもらえる。理想論かもしれないけど、話して分かり合えない人はいないと思う」


まこさんとの対話で感じたのは、絶対的に人を信じる信念でした。考え方が異なる他者に対して「正しい/間違っている」という正邪で分けることなく、人への深い興味で寄り添う、これこそが彼女のジャンプ力の源なのかもしれません。「壁がない人」というよりも、壁があったとしても高くジャンプして、しなやかに乗り越える、そうしてさまざまなものが繋がるための「プロセス」をつくるアーティストなのです。

自分として“在る”ために

文化や人をジャンプして繋ぐ「プロセス」は、外国人やよそ者、またアーティストでなくても可能だと、まこさんは言います。


「私がアーティストだから、コミュニケーションのプロセスを『アート』と呼ばれてしまうけど、これが私にとって自然な人との接し方なんです。」


このコミュニケーションのプロセスとは、私たちにもできることなのでしょうか。まこさんがスウェーデンのアートカレッジに在学していた時のエピソードでは、その実践の身近さを感じることができました。

まこさんは担当教授のゼミに所属することで、1人の先生としか話せなくなることを避け、他の教員たちとも面談の時間をつくったり、制作スタジオにいる仲間にいつも質問したりと、その頃からたくさんの人と対話することに積極的だったそうです。


「たくさんの人と話していると、さまざま視点からみんな違う意見を教えてくれる。でもそのときに、特定の誰かの意見や、また全ての意見を『取り入れる』とは少し違うんです。自分の奥底と通じ合うものがあるなと思えば『なぜだろう?』と分析したり、『納得するけど私の感覚ではないなぁ』と違いを確認したり。何かに属することも、誰かからの支配も受けることもなく、自分として“在る”ことを尊重し合って活動をしていました。」


「教授たちも生徒を既存の枠組みに当てはめたり、何かに属させるようなことはなかったです。評価の方法も点数やランクをつけるような仕組みはなく、生徒同士を比較することもない。個人の伸ばすべき独自性や、取り組むべき課題を生徒の思考を刺激するようにアドバイスし、それに対してどう考え、対処したか、その過程を評価をしてくれました」

アート作品は、世の中にある指標に合わせて点数を付けられるものでも、技術に優劣をつけられるものでもありません。また「アート作品」に限らず、数字や、何かと比較できる一次元的な価値に囚われず、独自性や、各々の思考の過程などにもっと焦点を当ててみると、見え方は豊かに変わってくるかもしれません。


それでも私たちは日々のなかであらゆる「指標」や「基準」を設け、レールをつくり、そのレールのなかで自分自身を認識していると気付かされます。


「未開拓のプロセスや、レールがない道を歩くことは、たしかに自由さはあるけど、葛藤もあるし、落ち込むことももちろんあります。でもレールに沿っていたら、オリジナルでなくなってしまう。異なる人、異なる意見を聞きながら、手探りでオリジナルな輪郭をつくっていくことが面白い。そういった協働作業が好きなんです。」


「アーティスト」という特定の人に限らず、誰でも実践できるクリエイティビティとは、まず固定観念と呼ばれるレールから脱して、自分として“在る”ための道を歩くことなのかもしれません。またそれは「1人」で行うものに見えて、実は他者との関わり合いのなかで、一歩踏み出せばできる実践なのだと思いました。

「余白」によって気づく、新しい寄り道

今回の取材の最中に街歩きをしていても、地図やスマホを見て目的地を目指すことはなく、道中でさまざまな人と話したり、遠回りになったとしても来た道とは違う道で帰って新しい景色を見たり、「レールがない道を行く」まこさんを感じることができました。


例えば私が街を散策するときは、まず行き先を決めて、スマホの地図アプリを使い最短距離で到着できるようにします。現代は、多くの人がそうするのではないでしょうか。しかし目的地に到着するまで、私はスマホと道順だけに気を取られていることも多いです。また、地図アプリが決めた道以外をわざわざ歩くこともありません。


もしかしたら、その道程には目的地よりも、自分好みのカフェがあったかもしれない、1本隣の道を歩けば、ずっと欲しかったモノに出会える雑貨屋さんがあったかもしれない。まこさんと歩いていると、自分では気づけなかった「寄り道」があることを知ります。

テクノロジーによって最適化された行為ではなく、わざわざ寄り道をするような「迷うこと」や「無駄なこと」、それにより悩み「考えること」など、とても人間らしい行為の素敵さを、まこさんは「頭のなかの余白」と表現します。今回のプロジェクトのコンセプトにも「自分の内側に余白を作り」という一節があり、余白をつくることについて語ってくれました。


「私はよく『トーストの上のバター』になったつもりで目を閉じて、身体が重力で沈んでいくのを感じています。そのとき、頭の中に空白をつくるんです。最初のうちは空白にならなくて、あれやらなきゃ、これはどうしよう?など、いろんな考えが浮かんでくる。でもそれをひとつひとつ横に置いていくイメージを持って、余白を作っていくんです。そうしていろんなことを受け入れていく」


「動画やテキストなどの情報で頭をいっぱいにしないように意識しています。余白がないと新しい考えが育まれないと思うから」


頭のなかにつくられた余白は、自分以外の考えを受け入れ、いつもとは違う視点をつくる土壌となり、寄り道に気づかせてくれる。私も一度スマホから離れて、余白をつくり、街歩きの新しい寄り道、また思考のなかの新しい寄り道をしてみたくなります。

クリエイティビティが溢れる街で

余白をつくり思考の寄り道を見つけることが、自分として“在る”ための一歩。


その一歩は誰にでもできるのだということを、金沢が生んだ仏教哲学者である鈴木大拙の有名な一節、〈われわれは自然の恵みによって、人間たる以上誰でも芸術家たることを許されている。芸術家といっても、画家とか彫刻家、音楽家、詩人という特殊な芸術家を言うのではない。“生きるということの芸術家”なのである。〉との言葉からも感じることができます。


工芸都市であり、「アートの街」という印象も強い金沢を訪れると、アーティスト/アーティストではない人、またアート/アートではないもの、その間には実は境界線がなく、誰でも生きること自体が「アート」となり得ることを体感します。


それは竪町商店街でも、クラフトマンシップやクリエイティブスピリッツが新旧入り混じりながら、体現されています。伝統工芸の「加賀友禅」を取り扱う風情ある呉服屋さんもあれば、カテゴリーやジャンルに縛られず「自由な発想でファッションを伝える」ショップもある。江戸・安政6年より続く、自家焙煎の加賀棒茶が味わえる歴史ある日本茶の専門店もあれば、台湾茶と加賀棒茶の組み合わせを楽しむ新しいカフェもあります。

ひとつひとつのお店にある個性は、生活のなかにこそ芸術があり、誰しも“生きるということの芸術家”であることを教えてくれます。また異なる文化、異なるクリエイティビティに同時に触れられることで、いつも親しんでいる文化から一歩外へ、固定されてしまっていたレールの一歩外へ、ジャンプすることに誘い出してくれる場所なのです。そんな商店街に白く浮かぶオブジェは、きっとその一歩を踏み出す背中を押してくれると思います。

あなたも自分だけのアート体験を!

今回のプロジェクトは12月頃まで継続予定です。何気なく過ぎ去る道の途中で出会うオブジェは、日々商店街に来ている人も、観光で訪れた人も、思わず近づいて、「これはなんだろう?」と目線を奪われます。


急に止まった場所から見える景色は、いつもとは違う角度で、新鮮な商店街の姿を見せてくれます。その「いつもとは違う」体験は、頭のなかに少しの余白を生み出すでしょう。

余白に慣れない私たちは、最初「?」が浮かんでいるだけだと思うかもしれない。でもそのあとに「こんな風に使うのかな?」「写真をとってみたら、面白いかも」と、オリジナルな考えが浮かぶ。撮れた写真に写っているのは、あなただけの竪町商店街です。


固定観念や価値観など、自分の思考とは、なかなか変えられるものではなく、見えている世界をほんの少しでもズラすことができたなら、それはかけがいのない、自分をもっと自分らしくする体験となります。金沢へ訪れたときは、新しい思考で、街も自分もより好きになる、自分として“在る”ための時間を竪町で過ごしてみてください!

アーティスト:石塚まこ

ヨーロッパを拠点に世界各地のコミュニティでつながりをもたらすプロジェクトを実施。 主な業績に、ストックホルム市初のソーシャルアートの公共芸術『食卓で会いましょう』 (2010-2011)、欧州都市部の有機性を利用して食や社会の循環をつむぐ『種の環』 (べネチア建築ビエンナーレ、2014)、パリの公共空間の浄化を試みる『純粋な拡散』 (協力:アンスティテュ・フランセ、2015-2016)、街中の窓を舞台に思考を展開する『向こう側(の人生)へ想いを馳せる』(フランス国立社会科学高等研究院、2017)など。また 東京都現代美術館、広島市現代美術館、ポーラ・ミュージアム・アネックス、アーツ前橋、TOKAS本郷での展示や、神戸大学国際文化学研究科との共同プロジェクトなど、日本でも活動している。


ライター:大橋真紀

学生時代は、美術大学で現代美術の創作活動に打ち込む。大学院修了後、メディアの仕組みに興味を持ち、総合広告会社のプランナーとして3年弱勤務。その後フリーランスとなり、複数のWebメディアと関わり、ディレクション・編集・執筆など全般的に行う。

写真:中川暁史

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